第三章 3核子散乱
 
3体散乱の境界条件は自明ではない。


2つの核子(2、3)が重陽子の束縛状態にあるところへ、核子1が衝突する場合を考える。従って始状態は重陽子の波動関数と第3粒子の運動量によって表せる。

(3.1)

ここで、ψ は重陽子の波動関数、q は重陽子と粒子1との相対運動量で、直ちに次の式を満す。

(3.2)

(3.3)

これは漸近的な終状態(核子+重陽子)であるが、その他、違ったペアによる重陽子と核子になるチャンネルと3核子が全てバラバラに壊れる Breakup の過程がある。それらのチャンネルへどのような境界条件を与えるかが問題になる。重陽子と粒子1の始状態からの散乱状態を とすれば、それは、Schroedinger 方程式をみたす。

(3.4)

少し書直して、
(3.5)

を得る。は始状態を非斉次項として、
(3.6)

と求まる。非斉次項は(V2+V3)のない場合の解である。第2項のグリーン関数の部分を書換えてみよう。
(3.7)
(3.8)
(3.9)

第1項は重陽子の状態からで、y を座標表示での q に対するヤコビ座標とし、これを表すと、
(3.10)
 

(3.11)
 

(3.12)

これは、(1.16)式に対応した計算過程である。このように、E>Edの領域では、散乱のチャンネル1の振舞いは次のようになる。
(3.13)

ここで、q ' は また、である。始状態の運動量を特にq0とする。同時に、始状態1のチャンネルから終状態チャンネル1への遷移振幅を定義する。

(3.14)

はブラ ヴェクトルでのもの。
 それでは、他のチャンネルへの場合はどうであろうか?  それは、(3.9)式の第2項から説明されなくてはならないだろう。しかし、Schroedinger 方程式 (3.4)に戻り、違った式変形を考えれば、直に、

(3.15)

を得るが、(3。6)と違って今度は、

(3.16)

の様に、非斉次の項は許されない。いずれにせよ、散乱振幅は

(3.17)

によって定義できる。勿論、

(3.18)

である。3番目のチャンネルに対しても同様で、LSE 斉次方程式を得る。

(3.19)

従って、この場合も振幅は、

(3.20)

で求まる。もう少し考えてみれば明かに散乱状態は、(3.6)式だけでなく、2、3でラベルできる波動関数によっても記述できるはずで、そのことは、がユニークな解でない事を表している。即ち、終状態が、2の粒子と重陽子の漸近状態に対する , 或は3の粒子と重陽子になる場合  を考えれば、それぞれの解は次式を満し、

(3.21)
(3.22)

LSE の一般解は
(3.23)

の様に、αとβを適当に選んでも、満足することになる。即ち、3体 LSE は一意的ではない。このことは重要で、Gloeckle によって、

(3.24)
(3.25)
(3.26)

の3つの方程式を連立させて解けば、必要かつ十分な解を得ることが示された。これを LSETriad三つ巴)という。
W. Gloeckle, Nucl. Phys. A141 (1970) 620.
この三つ巴を用いると、Alt-Grassberger-Sandhas (AGS) 方程式 及び Faddeev 方程式を間単に導くことができる。
Alt et al., Nucl. Phys. B2 (1967) 167.



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