3体力についての論文は豊富にあり、そのいくつかを揚げる。
M.R. Robilotta, Few-Body Systems Suppl. 2 (1987) 35
B.H.J. McKeller, Lecture Notes in Physics 260 (1986) 7
S.A. Coon, Few-Body Systems, Suppl. 1 (1986) 92
P.U. Sauer et al, Europhysics News 15 (1984) 5
R.B. Wiringa, Phys. Rev. C43 (1991) 1585
D. Pluemper et al,Phys. Rev. C49 (1994) 2370
最近のカイラル摂動理論によるものとしては、
U. van Klock, Phys. Rev. C49 (1994) 2932
等である。ここでは、それぞれの3体力についての議論は行なわない。勿論、これらは核力(2体力)に関した問題であり、物理はそこにある。しかしながら、ここでは技術的な問題や、いかに Faddeev 方程式に組込むかについての議論に注目する。3体力のひとつのあり方として考えられるメカニズムは、2π中間子交換である。

図に示した黒丸の部分は、π-N 散乱の散乱振幅(a)から、単純に核子が伝播する部分(b)を差し引いたものと解釈できる。

なぜならば、この伝播する項(b)を取り込んだ3核子の過程を考えれば、図のように

既に2体力で考慮したものに成ってしまい、同じものを二重に取り込むことになるからである。(V12G0V23
従って、b)の項をπ-Nの振幅から取り除いたものを V4としなくてはならない。一方、

この場合、中間の核子に代る粒子が物理的な考えから必要で、具体的にはΔ粒子がある。明らさまに、Δ粒子を用いて3体力が提案されたものを Fijita-Miyazawa(藤田-宮沢)と呼ばれている。
J. Fujita et al, Prog. Theor. Phys. 17 (1957) 360
低エネルギーでのカレント代数を考慮すると、Fijita-Miyazawa 力 の他に幾つか付加された項も含めた3体力の模型があり、代表的なものは、Tuscon-Melbouron 力 と呼ばれている。π-π交換について、その表式を書けば、

(2.80)

の様に与えられる。上につけた添字(1)は、図で示した3つの過程のなかで、真中の核子番号が1番になる項を意味し、他の項は循環あるいは反循環の粒子交換演算子によって求まる。

(2.81)

ここで、F_πNNQ)は強い相互作用の形状因子、また、Q Q’はπの運動量を意味する。a,b,c,d の定数は理論的に与えられたり、実験的に決められなくてはならない自由度が残っている。この3体力は簡単に座標表示にも書き換えることができる。

(2.82)


ここで、Z は次式で与えられる。

(2.83)

例えば、スピンやアイソスピンを無視して、更に a-項だけに注目すれば、これは、明かに2つのYukawa型の相互作用の積に成っている。しかしながら、見ての通り3体力はもう少し複雑である。
更に、π-πのみでなく、π- や - の交換の効果を取り込んだ3体力もある。その場合、  のスピンが1であるために複雑な形のスピン依存型の3体力になる。
 

次に、これらの3体力をFaddeev方程式に取り込むことを考えよう。先ず、Schroedinger 方程式から始める。

(2.84)

ここで、既に3体力は3つの部分から成ることを仮定している。しかし、この仮定は物理的には3核子の同一性となんら矛盾することではない。従って、2体力 V_ij の和と3体力の和はまとめることができて、Faddeev 要素は次のように定義できる。
(2.85)
(2.86)
(2.87)
(2.88)
(2.89)
ここで、LSE の2体散乱行列 t は

(2.90)

を満すことから、Faddeev 方程式は
(2.91)
の様に書ける。更に、粒子交換演算子を使って書けば、見透しの良い形として、

(2.92)

を得る。実際の計算では、これらを更に部分波に分解した形で解く必要がある。それについての詳細は、例えば、
W. Gloeckle, Lecture Notes in Physcs 273 (1987) 3
S. Coon et al, Phys. Rev. C23 (1981) 1790
を参照されたい。
3体力に用いている粒子交換演算子は(2.57)式を使う方が便利である。また、部分波の扱い方は
D. Hueber et al, Few-Body System 16 (1994) 165
に詳しい。
(2.92)式は解かれてる。
A. Stadlar et al, Phys. Rev. C44 (1991) 2319
この論文からいくつか結果を引用する。

残念ながら、現状ではπNNの形状因子に対する強い依存性があり、通常それは

(2.93)

の形で与えられ、切断パラメーターΛに依って結合エネルギーが簡単に変ってしまう。
πー 及び -の交換を考慮した計算が
A. Stadler et al, Phys. Rev. C51 (1995) 2896
にある。表には、適切な切断パラメーターを選んでの結果を示した。2体力で知られている切断パラメーターと比べて3体力は大きな値が必要であるが、表を見て分るように3体力によって実験値再現の希望が持てそうである。しかしながら、一方、OBEPQの場合を見るとかなり過結合になっていることから、2体力と3体力の整合性について更に研究する余地がある。

その方向での理論的な進め方のひとつは、トリトン内部のΔ粒子の励起を1つだけに留まらせず、2つ3つと増すことである。

(2.94)

当然、これらの基底をSchroedinger 方程式に代入すれば、4つの連立した方程式を解くことになる。最近のこの方向での研究は
A. Picklsimer et al, Phys. Rev. C46 (1992) 1178
等にあり、先駆的な仕事は、Hajduk 等
Ch. Hajduk et al, Nucl. Phys. A405 (1983) 581; Nucl. Phys. A405 (1983)  605
よってなされた。そこでは、Δ粒子による引力的な部分は他の効果から生じる斥力的な部分と打ち消し合い、結局は2体力に近付き、また、ΔΔΔ の状態は非常に小さいが、NΔΔは無視できないというものであった。

2体力と3体力の整合性の叶った計算は、まだなされていない。



 

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