3体力の性質や寄与の大きさの研究は、今日時期相応なテーマである。中間子理論と計算技術がその問題を厳格に扱える段階に入っている。3体散乱での多くの設定条件や偏極測定は、3核子のハミルトニアンに新しい力学的に重要な内容を期待している。3体力を含めた計算を
Faddeev
理論上に拡張しよう。
LSE からよりも、もう少し直観的な方法に従って議論を進める。
(D. Hueber et al., Few-Body Systems 14 (1993)
171)
ノイマン級数を、核子と重陽子が始状態、ブレイクアップを終状態とする場合について、グラフにしてみよう。
(図)(under way)
ここで、グラフは右から左に読む。半円は重陽子を表し、水平に書いた線は核子が自由に伝播する様子を表す。波のある線は2つの核子間に働く相互作用で、円と垂直な線は3体力である。ここで書いたのはほんの数例で、無限個のプロセスがある。しかし、どんなプロセスも許されるかというと、実はそうではない。始状態から最初に相互作用するものは、1-2のペアであってはならない。なぜならば、その相互作用は既に重陽子(12)の波動関数の中に取り込まれているからである。V1=V23,
V2=V31, V3=V122体力と、また、V4=V123
を3体力と略記する。
さて、この組み替え散乱振幅は、4つの部分に分解することができる。
(3.112)
即ち、終状態の側(左)から見て最後に相互作用するペアに注目すれば、例えば、
(3.113)
のように書ける。2体の t-matrix を使えば、
(3.114)
と簡単化できる。他の場合も同様に、
(3。115)
(3。116)
(3.117)
ここで、T3 の場合、他と違っていることに注意する。さて、始状態の
は、
(3.118)
で表せて、同一粒子の場合、明かに対称化されなくてはならないから、対称化されたブレイクアップ振幅を
Us0と書けば、
(3.119)
を得る。この振幅に対する方程式を導こう。
(3.120)
(3.121)
ここでも、粒子交換演算子を上手に使って、
(3.122)
(3.123)
従って、
(3.124)
(3.125)
(3.126)
(3.127)
(3.128)
を得る。以下の議論では、(s)と1の添字は無用なので取りはずし、その代わり
P
を使う。(3.126)式と(3.128)式は、
(3.129)
(3.130)
と整理でき、ブレイクアップの演算子は、
(3.131)
と書ける。同様に、弾性散乱の振幅 U も求めることができる。結果は、
(3.132)
となるが、ここでは示さない。
3体散乱における Tucson-Melbourne
の3体力(πーπ、πー,
-
)を使っての3体力の効果の研究が現在始まったところである。
S.A. Coon et al, Phys. Rev. C48 (1993) 2559
L. Sydow et al., Few-Body Systems, 25 (1998) 133.
3 MeVと14MeV の低エネルギー領域での効果を見ると、
(3.133)
の弾性散乱の結果は殆ど変らない。しかし、
や
、
,
Ayといった量を計算すると低エネルギーでも、はっきり違いが出てくる。(
a=3MeV, b=14MeV)
(図)
,
Ay
しかし、偏極量が単に低エネルギー領域で、小さな値なので敏感(sensitive)になっているに過ぎない可能性がある。
トリトンの結合エネルギーと深くかかわっている偏極量がある。スピン偏極移行量(nn)で、
P. Hempen et al., Phys. Rev. C57 (1998) 484
に詳しい。
3体力を含めなかった場合、理論曲線にバラツキがある。
3体力を含めた場合、どのポテンシャルも1つの理論曲線に近付き、また、データとの合いも良くなる。但し、それぞれのポテンシャルに対して、トリトンの結合エネルギーを与えるように3体力のカットオッフパラメーターが選ばれている。(スケーリング
)
の場合はそれ程スケールしないが、今後もっと精度の高い測定が期待される。
陽子-重陽子の低エネルギーでの研究は、当然、クーロン力を含める必要がある。
Pisa
のグループが勢力的にそれを計算している。
A. Kievsky et al., Nucl. Phys. A 577 (1994) 511
この2つのエネルギーに於けるブレイクアップ過程での3体力の効果は少い。 FSI(終状態相互作用)のピークを終状態で相互作用をしている2つの核子の作る角度に対してプロットすると図のようになる。
(図)
どの場合も同じ値を出す角度があり、3体力に依存しない角度で、nn
の散乱長が測られれば、良い精度で測定できる。
いずれにせよ、ブレイクアップでの測定は今後、3体力の効果を引出す最も良いオブサーバブルを与えると予想されている。
高いエネルギーでの3体力の効果について、近年多くの研究がなされている。
実験
理論