運動量空間での基底を、一定の量子の軸に対して、軌道角運動量 l とその磁気量子数 m を用いて表す。

(1.55)

したがって、(1.1)の ベクトルは(1.55)によって表されて、またその正規直交規格化の関係は、

(1.56)
(1.57)
(1.58)

となる。従って、部分波の基底を使った LSE を記述することができる。

(1.59)

簡単のために回転に対して不変なポテンシャルを考えよう。

(1.60)

この場合、(1.59)式は一変数の積分方程式になる。

(1.61)

ここで、Vl(p、p’)とは、通常の V(r)からどの様に導けるのか? 運動量空間と同様に座標空間においても部分波基底が定義でき、

(1.62)

(1.56)式と同じようにベクトルを表現できる。

(1.63)
従って、

(1.64)
(1.65)
(1.66)

により、部分波同志の内積を表し、これは(1.10)式に対応する。

次に、これを使って Vl(p、p’)V(r)から具体的に計算する方法を示す。

(1.67)


但し、ここでは局所的なポテンシャル(1.19)の場合を示したが、非局所的な場合は練習問題として読者に任せる。
このように求まった Vl(p、p’)を用いて、遷移振幅 tlを(1.61)式を解くことにより求める。

しかしながら、実際の核力はもう少し複雑である。なぜならば、核子が固有に持つスピン やアイソスピン にも依存するからである。それらの空間も含めた基底を与えれば

(1.70)

と表記できる。2核子のスピンの和s=0,1 それにアイソスピンの和t=0,1 を取ることができ、それぞれ、スピン一重項、三重項、アイソスピン一重項、三重項と呼ぶ。何重項であるかは、例えばスピンの場合 2s +1 で計算する。核子同志がアイソスピンによって陽子か中性子かを識別する場合、それらを同一粒子と扱うと便利である。同一粒子の仮定は、対称性を持つことになり、核子はフェルミ統計に従う粒子であることから、粒子の交換に対して反対称性を持つ。この要請は良く知られているように次式で与えられる。

(1.71)

核力の部分波のラベルを次のように書くのが通常である。t=1 に対して、

(1.72)

また、t=0に対しては、

(1.73)

等々である。ここで、ハイフンを入れた状態は結合した状態を意味し、軌道角運動量 が保存しない。その原因はテンソル力に寄るものであることが知られている。
従って、一般に核力は、全角運動量、スピンと偶奇性(パリティ)が保存して、次のように書ける。

(1.74)

ただし、(1.71)式の条件から、アイソスピン依存性は無視した。しかし、実際は mtに依存する。その依存性は次の2つのことから分類する。 荷電独立性の破れ(Charge Independence Breaking :CIB)と荷電対称性の破れ(Charge Symmetry Breaking: CSB)である。すなわち、
CIB : 中性子-陽子に働く核力(np)と、陽子-陽子に働く核力(pp)との違い。
CSB : 中性子-中性子に働く核力(np)と、陽子-陽子に働く核力(pp)との違い。
例えば、1S0の状態について、npの核力は nn 或は pp の核力と異ることが確立している。このことを、散乱長でみれば、

(G.A.Miller et al, Phys. Rep. 194 (1990) 1)、

(B. Gabioud rt al, Phys. Rev. Lett. 42 (1979) 1508; O. Schori rt al, Phys. Rev. C35 (1987) 2252 )

.

ここで、中性子-中性子散乱は直接実験ができないために、
π- + d       ->      n + n + γ

の反応や、中性子-重陽子の崩壊実験 (W. Tornow, TUNL) と三体計算より引出している。t = 1の場合の CIBCSBはまだ正確に確立できたとはいえない。中間子論的な観点から、この違いの起源は核力の内部のパイ中間子の質量の違いか生じると説明される。以下の議論ではこの mt依存性については触れないので、引数からはずす。

リップマン-シュウィンガー方程式は一般的な基底を用いて、

(1.75)

或いは、
(1.76)

と書ける。スピンは高々1でありパリティは保存することから、軌道角運動量は

(1.77)

が取り得る。このことから、単一積分方程式または、2連立積分方程式(two coupled equations)を扱うことになる。2つの部分波が結合した典型的な例は

(1.78)

の状態で、重陽子の状態である。


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